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時流超流 2009年1月13日
楽天、国を相手に訴訟辞さず 薬ネット販売、代引きサービス…、相次ぐ規制に怒り心頭
「意味が分からない。筋が通らない。これはアンシャンレジュームとの戦い。裁判でも何でもする。必ず崩す」
医薬品のインターネット販売を規制しようとする厚生労働省。それに断固反対の姿勢を貫くネット業界。両者の攻防戦が大詰めを迎えた2008年暮れ、楽天の三木谷浩史会長兼社長は日経ビジネスの取材に応じ、怒りをぶちまけた。
通じなかった主婦らの陳情
「消費者として、ネットで薬を購入できなくなるのは本当に困ります」
昨年12月11日、午前10時、厚労省大臣室。1歳の双子と5歳児、3人の子育てに追われる千葉県在住の主婦はそう、舛添要一厚労相に訴えた。ほかにも、障害者や消費者団体の代表など、外出が困難だったり近隣に薬局がなかったりと、ネット通販を重宝する消費者の姿も。極めつきは、ネットで集めた10万人超の署名と、4000人分の規制反対意見。消費者の声とともに連なるのは、ヤフーやNPO法人(特定非営利活動法人)の日本オンラインドラッグ協会など“ネット村”の名前。ネット業界をまとめ、この陳情劇を演出したのは楽天だ。
しかし、こうした努力も虚しく、2009年6月から、ネットを通じて一部医薬品を販売できなくなることが確定的となった。厚労省は2008年12月末、政府の規制改革会議に対し、医薬品のネット販売を一部禁止する方針には変わりがないと回答した。
日経ビジネスにも、2009年の年頭、「2009年6月に施行される改正薬事法の施行規則を改正する省令を、1月中に公布する」と明言した。
販売できない医薬品は、改正薬事法で定義される、副作用のリスクがある1類と2類。薬局などで販売されている大衆薬のうち、「ルル」や「バファリン」などを含む約65%が、規制の対象となる。それらをネットで販売した場合、事業者は処分や罰則の対象にもなる。
楽天はいまだ「まだ省令が出たわけではない」と反対活動をギリギリまで続ける意思を見せる。最終手段は訴訟。楽天は国を相手に、規制の根拠となる厚労省の省令が無効であることを確認する何らかの訴訟に踏み切る準備を、着々と進めている。
厚労省との仁義なき戦いは続く。それは決して楽天のエゴではない。
楽天に出店する約2万6000店舗のうち、医薬品を扱うのはわずか200店舗ほど。そのすべてが店仕舞いをしたとしても、楽天の業績に与える影響は軽微だ。ネット経由の大衆薬販売額は、市場全体の1%、年間約60億円という推計もあり、決して大きくはない。
しかし、ここ数年、右肩下がりの縮小傾向にある大衆薬市場において、ネット販売は急速に伸びている。経済の発展を担う政府が貴重な成長チャネルを潰そうとする、それも背後に古くからの業界団体が見え隠れするから、三木谷社長の怒りは収まらない。
今回、日本薬剤師会や大手ドラッグストアが加盟する日本チェーンドラッグストア協会は、医薬品のネット販売を規制すべきだという姿勢を強く表明し、厚労省に賛成の立場を貫いている。主張も、厚労省の見解とほぼ同じだ。
「患者の体質や状況など相談に乗って薬を薦めなければ、副作用が起きて危険だ。そもそも、医薬品の販売は、対面販売が原則だった」
日本薬剤師会の石井甲一専務理事はこう話す。石井専務理事が指し示したものは厚労省の2つの通達。1995年と2004年に各都道府県宛に出されたものだ。同省の医薬品の販売に対する考えが示されている。
確かに1995年の通達には「カタログ販売は、かかる対面販売の趣旨が確保されていないおそれがあり、一般的には好ましくないところ」とある。2004年の通達では「逸脱した事例が見受けられ、指導が行われている」とある。
ただし、そこにはカタログ販売やネット販売を明確に禁じている文言は、見当たらない。さらに「個々のケースごとに判断するべきところ」としている。実際に各都道府県ごとに対応が異なっており、曖昧な通達とも言える。
たとえ、厚労省や都道府県の意向に背いても違法にはならない。民主党の前原誠司前代表が医薬品のネット販売に関する質問を政府にしたところ、2008年11月、「現行の薬事法において、ネットによる医薬品の通信販売を禁止する規定はない」との回答を得た。
好ましくはないが、違法ではない。この玉虫色の現状にケリをつける動きが、今回の騒動である。
厚労省医薬食品局総務課は「好ましくないとは言っていたが、法律上、罰則をもって規制するという話でもなかった。そこで白黒はっきりつけようというのが、今回の省令」と話す。
だが、対面販売だろうが、ネットで売ろうが、誤った使い方をしたり、情報が周知されていなければ、副作用は起きる。正しい情報の伝達は、むしろネットの方が強いというのが、楽天の主張だ。
しかも、ネット販売でも現行法上、薬剤師は必要であり、日本薬剤師会にとっても需要が増すよい話のはず。ドラッグストア協会にとってもネット販売という新たなチャネルは追い風だ。
にもかかわらず、業界団体が規制賛成の立場を取るのはなぜなのか。
省益が生む新たな規制
楽天関係者は「正直、よく分からない」と首をかしげる一方で、「新しい会社がネット販売でシェアを伸ばし、既存業界は出遅れたので、まずは新興勢力の頭を抑えたいのではないか」と話す。人口減、消費不況で、ただでさえ厳しい事業環境に、ネット勢力の勃興がさらに追い打ちをかける。だからこそ、自分たちが事業機会を失ってでも、規制に賛成するという見方だ。
ここに「省益」が絡み、ネット業界に逆風が吹く。議論なき締めつけ。三木谷社長の怒りの源泉は、ここにある。
「何で規制をしたがるのか。結局ね、どうだ、俺たちが決めているんだという権力欲ですよ。天下り自体はいいと思うよ。でも、そのルートを使って、ロビイングはないよ。官僚や元官僚は、自分たちを何様だと思っているんだ」
三木谷社長がそう話すのには、根拠がある。日本薬剤師会の石井専務理事は元厚労省医薬局食品保健部基準課長だ。理事には元厚生省医薬安全局安全対策課長の名が連なる。ともに、今回規制を決めた担当部局の出身だ。
「ネット産業は新興勢力でまだ省庁の息がかかっていない。自分の支配下に、縄張りに置きたいという思いも影響しているのではないか」
そう話す三木谷社長には、金融庁も同じ穴のムジナだと映る。
ヤマト運輸も苛立ち隠せず
「この規制は何のためか分からない。権限を行使する金融庁のメリットだけを考えているのか」
ヤマト運輸の木川眞社長は語気を強める。ヤマト運輸をはじめとして、宅配業界やネット業界に大きな波紋を呼んでいるのが、「代金引換サービス(代引きサービス)」に対する規制だ。
代引きサービスとは、荷物の輸送とその代価の徴収を同時に行うサービス。指定された場所へ荷物を運んだ際、その代価を相手から預かる。ネット通販の拡大で利用者が急増しており、金融庁はここに目をつけた。
昨年立ち上げた、金融審議会の「決済に関するワーキンググループ」で突如、代引きサービスに金融業の規制を検討し始めた。今年の通常国会での法案提出はないと見られるが、「予断は許さない」(ヤマト運輸)状況だ。
規制が導入されると、まず求められるのが供託金制度の適用だ。金融庁が主張するのは運送業者が倒産した場合、消費者が二重請求される恐れがあり、そのリスクを避けるために、供託金が必要というわけだ。供託金は期末預かり残高の50%程度と見られている。代引きサービス最大手のヤマト運輸の場合、およそ250億円の供託金が必要となる見通しだ。
一方で、ヤマト運輸は代引きサービスを始めてから50年、一度も二重請求事故は起きていないという。「そもそも代金は商品と引き換えなのだから、商品がなければ消費者は代金を支払うはずがない。なぜ消費者保護を訴えるのか分からない」と主張する。
さらにマネーロンダリング対策として、10万円を超える決済金額の場合、本人確認を必要としている。当然、こうした手間もコスト負担につながる。「現金を頂いた時に、身分証明書を出せというのか。奥さんがご主人の荷物を受け取った時に、代理人受領による委任状が必要なのか」(ヤマト運輸)。
実際にこうした規制によりコストが生じた場合、「消費者に負担が及ぶ。規制によって最も迷惑がかかるのは消費者にほかならない」と木川社長は言う。
さらに懸念するのが、規制によって通信販売そのものの発展を阻害するのではないかということだ。
「規制で生じたコストが配送料に転嫁されたうえに、商品を購入した際にいちいち確認されたら、消費者は利便性を感じなくなる」と木川社長は言う。
「ネットの発展なくして、国の発展はない。経済構造も変わらなければいけない。それを各論でぐじぐじやられて、個別の戦争で必死になって抵抗するのは、もうやめたい」
そう語る三木谷社長には、ある決意がある。
ネット業界の新経済団体設立へ
新経済団体の設立――。三木谷社長は2009年中にも、ネット企業を軸とした、新たな経済団体を設立する意向を示した。
「ネットとリアルの戦いになってきている。叩かれても一緒に戦いましょう、ともに筋を通しましょうということ」と語るにとどめるが、決意は固く、準備も始めている。国内勢だけでなく、アマゾン・ドット・コムなど外資系企業も巻き込んだ大同団結を描いているようだ。本来、消費低迷に喘ぐ既存業界にとってネットは、商圏を広げる武器となるはず。事実、楽天には、潰れそうだった地方の小さな老舗商店が多数出店し、多くが業績を伸ばしている。
そうした光明に水を差す規制。その意味を、もう一度、真剣に議論すべきなのではないか。
2009年01月13日
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